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サツキという少女について僕が知っていることの一部分

サツキという女の子について話そう。


サツキは、瀬戸内海に浮かぶ島にある祖父の家にほど近いところに住んでいた、水産関係の役人の子どもだった。

サツキに関して僕が覚えている一番古い記憶は、サツキが母親から乳を与えられている姿だった。

少し黒ずんだ、大き目の乳輪にぽつんと起立する乳首に、眠たげにしゃぶりつくサツキ。

それを見ていた5歳頃の僕は、子供心にも、なにかしら官能的なものを覚えていた。

それが、母親の熟れた乳房に対してなのか、それとも、その乳房に吸い付くという行為に対してなのか。それはよくわからない。

ただ、サツキが乳を吸う姿が、僕の記憶にはやたらと鮮明に焼きついていた。


サツキとは、夏休みによく会った。家族で里帰りするのが、盆休み前後だったからだ。

だから、サツキとの思い出には自然と、夏のじっとりとした蒸し暑い空気が付きまとう。

サツキとは、よく遊んだ。

祖父の家の裏手にあった雑木林で蝉を採ったり、海で泳いだり、花火をしたり、ただひたすら、汗だくになって駆けたり。

島にいる間は、ずっとサツキと遊んでいた。そして、飽きるということがなかった。

大仰な言い方をするなら、サツキは僕の子ども時代の、最も無邪気な側面の象徴、と言ってもいい。

僕には、こういった他の子と一緒になって遊ぶということがあまりなかったため、なおさらその思い出は、好ましく映った。


僕が高二の頃だった。

その年も、盆休みに祖父の家に家族で帰ってきた。

その年は、ちょうど曽祖母の十七回忌だった。

曾祖母は、僕が生まれると同時に亡くなった。

そのことは、奇妙な連帯感のようなものを、僕に覚えさせていた。

年忌法要だったため、親族の主だった面子が祖父の家に集まっていた。

そのなかには、小さな子どもも多く、年長者だった僕は、その子たちの世話を押し付けられることになってしまった。

そいつらは、意味もなく奇声を発したり、飛び上がったり、泣きわめいたり、しまいには下半身丸出しで駆けずり回る。

正直、僕の手に余っていた。

そこで、サツキが僕の手伝いをしてくれることになった。

サツキには、来年小学校に入る弟がいて、そのせいか、一人っ子の僕よりも、小さい子どもの扱いに慣れていた。

子供たちが昼寝を始めると僕たちは、急な山の中腹にある祖父の家から、坂を下ったところにある、小さなフェリーの発着場へと行った。

そこには、5台の自販機が連なった、鄙びた発着場には不釣合いなほど立派な自販機コーナーがある。

僕はそこで、コーラのロング缶を買い、サツキに手渡した。

「悪い、助かった」

「ええよ、別に。暇やし、どーせやれぇて言われるもん」

そうからからと笑い、サツキはベンチから手を伸ばしてコーラを受け取った。

僕は、自分の分の飲み物を買い、サツキの横に腰掛けた。

「つかお前子ども寝かすのうまいんな」

「弟で慣れとるから」

ぷしっ、とスプライトの缶を空ける。

「ようくん、いっつもスプライトやね。好きなん?」

「いや、別に。コーラよか好きな炭酸ってだけで」

「コーラ嫌いなん?」

「薬の味がする」

「えーせんよー」

「なんかするって。なんか、草っぽい」

「ないわー」

サツキは、げっぷを堪えるせいか、喉下でくっくっと呻き声に似た声を上げる。

「あかん、もー飲めんわ」

そう言うと、飲みかけのコーラの缶を僕に手渡した。

軽く振ってみると、まだ三分の一くらい残っている。

「お前がロングがええっちゅーから買ったんやで」

「だって、350のやつやと、足りんのやもん」

「贅沢やなー」

僕は残っていたスプライトを空け、さらにコーラも続けざまに一気に飲み干し、大きなげっぷをした。

「うわ、汚ねっ、サイテー」

「しゃーないやん。炭酸飲んだらげっぷがでる、これ摂理ナリ」

その後も、サイテーサイテーとサツキは言い続けた。


「そういえば、お前中学は?」

缶を片付け、家へと戻る坂を上りながら、僕は訊ねた。

「高松の私立」

「島のには行けへんの?」

「父さんが高松に転勤やねん」

「せやったら、あんま会えんくなるなー」

「寂しい?」

にやりとした顔をこちらに向けてくる。

「アホ言うな」

「強がらんでもええんやでー」

にやにやしながら続ける。その顔が、なんとなく癪に障った。

「もーええ、お前には二度と会わへん」

「ひどいわー傷つくでーうち」

「勝手に傷ついとれ、アホ。どこにでも行けや」

ふっ、と沈黙。言い過ぎたかな、と思った。

気まずくなり、なんとなく歩調を速めた。

坂の途中には、神社がある。

車道をずっと登っていくこともできるが、それは疲れるので、境内の階段を上る形で家に帰った方が楽である。

僕らは、神社の境内へと入った。

木が生い茂っていて、炎天下を歩いてきた身には、ひやりとするほどである。

「あーすずし」

沈黙を振り払うように、僕は声を出した。

ふいに、服の後ろを掴まれた。

振り返ると、サツキが目を伏せている。表情はよく見えない。

「こわいねん」

ぽつりと、サツキはそう言った。

僕はなんと答えていいか、よくわからなかった。

「中学か?」

首を横に振る。

「島から離れることか?」

違う。

「じゃあなんやねん?」

その問いには答えず、サツキはもう一度、「うち、こわいねん」と呟いた。

「せやから、なんがやねん」

サツキは、黙って目を伏せるばかりだった。

僕も、黙っているほかなかった。

しばらくの間、サツキが僕の服を握りながら、互いにうつむいている状態が続いた。

黙っていると、蝉の声が、頭の中でうるさく反響して仕方なかった。

しばらくして、じじっ、と蝉が飛んでいく羽音が聞こえた。

それと同時に、サツキは服から手を離して顔を上げ、照れたように笑った。

「ごめん、帰ろ」

そう言うと、サツキは急な階段を二段飛ばしで駆け上がっていった。

抱きしめりゃよかったのかな、とふと思った。

そして、それがとんでもない考えであることに、すぐに思い至った。



その夜は、なんとなく眠れなかった。



翌日、寺で法要が営まれた。

法要が始まる前に、僕は寺の離れにあるトイレに行った。

便器の前に立って放尿していると、目の前の格子窓の外に、サツキの両親の姿が見えた。

サツキの母方の祖母は、僕の曾祖母の姪にあたるらしい。

その関係で、彼らも法要に出席していた。

よく見ると、何か言い争っているようだった。

ここからでは、何を言っているのかよく聞こえなかったが、やがて母親の方が踵を返して、寺のほうへと向かっていった。

そのあとを、父親が追っていく。

僕は手を洗い、寺へと向かった。

サツキの両親と鉢合わせなかったことにほっとしながら、法要の間へと行き着いた。

見ると、曾祖母の縁者たちが集まり、座布団の上で姿勢を崩して談笑していた。

その様子は、葬式のように故人を悼むものではなく、どこか儀礼的な気だるさが含まれているように思えた。

サツキの両親は、まだいなかった。

かわりに、曾祖母の遺影を正面から見据えるように、居住まい正しく正座しているサツキの後姿が目に入った。

髪をお団子に結い、少し日に焼けた首筋を剥き出しにした、どこか成熟したところのある喪服姿に、僕ははっと胸をつかれた。

法要の最中も、サツキは両親に挟まれながら、その姿勢を崩そうとはしなかった。

その姿を見ていると、なんとなくこちらの居心地が悪かった。



法要の翌日、親戚たちと海水浴に行った。

家のすぐ近くにある海水浴場は、真夏の盛りだというのに、地元の子がちらほらと見えるだけで、観光客らしき人影の無い場所だった。

だが、海はいかにも滋養が豊富そうに黒々としていて、冷たく綺麗だし、砂浜にはゴミが少ない。

ひたすら泳ぎたいだけの人間にとって、この海水浴場は格好の穴場だった。

僕は海パン一丁で、ひたすら潜ったり浮かんだり、思い切りクロールしたり、親戚の子どもを放り投げたりして遊んだ。

寒さと疲れでへとへとになり、海から上がると、熱く焼けた砂浜に寝転んだ。

「子どもみたいや」と、くすくすと笑う声がした。

ふと隣を見ると、日傘を差している、ワンピース姿のサツキが立っていた。

「泳がんゆうとらんかった?」

「泳がんよ。来ただけ」

そう言うと、サツキは手提げカバンからビニールシートを取り出し、それを敷いて僕の隣に座った。

太陽が暑い。

目を瞑っていても、眼球が蕩けてしまいそうなほどの強烈な日差しを、瞼の裏に感じた。

「ようくん、彼女おるん?」

「おったよ」

僕は、それだけ言った。

すったもんだの挙句、彼女を泣かせて、ついこの間めでたくお別れしました、と懇切丁寧に言うのは面倒くさかった。

「そーなん」

それだけ言うと、サツキはそれきり黙ってしまった。

薄く目を開けてサツキのほうを見ると、サツキはただひたすらに目を細め、水平線の彼方へと目を凝らしていた。

あるいは、太陽が眩しすぎたのか。


そんなことは、僕には分からなかった。


翌日、僕は福岡へと帰った。


三年たった今、僕はサツキとはごくたまにメールをやりとりしているだけで、その間、一度も会ってはいない。

進学を控えた彼女は、服飾関係の専門学校に入りたいらしい。

両親は反対していたそうだが、つい最近、折れてくれたというメールが来た。



僕がサツキについて知っていることは、これくらいだ。



今年の夏こそ、また島で会えたらな、と思っている。



<終>



【あとがき】



子どもだと思っていたらいつのまにか成長してた少女って、なんだかときめきますよね。

ときめきますよね。

大事なことなので二回(ry


モデルになった島は、小豆島と言います。


物語はフィクションですが、風景は実物をなるたけ正確に描写してみました。


・・・視覚的な描写力に乏しいなぁ、俺、などと改めて思っちゃったり・・・



あー、なんか小豆島に帰りたくなってきた。じーちゃんばーちゃん、元気かなぁ。
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Author:どMの犬
よばれてとびでてPCつけてからじゃじゃじゃじゃーん

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